プロの仕事

060118.jpgもう半年以上前の話だが、仕事が深夜にまで及び、事務所を出るのが午前2時過ぎになった。当然、電車は走っていない。私は、事務所の側の交差点でタクシーを拾い、自宅のある王子へと向かった。深夜だったこともあり、タクシーは順調に走行し、後楽園、白山、本郷と通過していく。私がタクシー帰りするときの「お決まりのルート」だ。タイミングもよく、信号にもほとんど引っかからない。

白山上の交差点で、ようやく信号に捕まった。前には数台の車が列を成している。この時間だけあって、やたらとタクシーが目に付く。私は、「不景気とは言え、深夜まで仕事したり、飲んでたりする人が結構いるんだなぁ」と、他愛の無い事を考えながら、ぼんやりと外を眺めていた。

30秒ほどして、タクシーが再び走り始めた。…と、交差点を曲がったところで、車がお決まりのルートから逸れて左折し、細い路地へと入っていった。定例のルートが一番早いと思っていた私は、思わず「この道でいいんですか?」と運転手に尋ねた。すると運転手は「ええ、いいんですよ」とのこと。私は半信半疑で、思わず周囲をキョロキョロと見渡した。すると運転手が次のように説明してくれた。

「さっき止まった交差点は、前に車が5台以上止まると、次の信号にも捕まってしまうんです。並んでいるのが4台なら何とか突破できるんですけどね。今日は6台止まっていたので、次の信号で引っかかるのを避けて、手前の抜け道に入ったんですよ。」

運転手の話だと、この抜け道を使うことで、時間にして1分ほど短縮できるという。これぞプロの仕事。話によると、彼はこうしたデータの数々を自宅のパソコンに入力し、データベース化して活用しているとのことだ。
「そのくらいしないと、この業界では生き残れないですよ。」
まだ年齢も30代前半といった感じであろうか。運転手は、屈託の無い笑顔でそう話してくれた。

その後まもなく、タクシーは自宅に着いた。料金は3,220円。いつもより1メーター安かった。プロの仕事とは何だろうか。自分しかできない仕事とは何だろうか。日々そんな疑問を抱く私にとって、彼の仕事ぶりは大きく心を揺すぶるものであった。