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私の机の上には、一つの石が置いてある。昨年の夏、葉山にある大浦さんの別荘へ骨休みに行ったときに頂いたもので、ほぼ球体に近い“まん丸”な石である。加工品ではない、浜で拾った天然品で、あまり丸さに得も言えぬ愛おしさを感じてしまい、私の強い意向で大浦さんから譲っていただいた。以来、私の仕事机の上に恭しく鎮座している。
この石、机の上で勢いよく転がしてみると、野球ボールのように真っ直ぐな起動を描いて転がっていく。ここまでキレイに転がるのは、この石が完全たる球体に近いからに他ならない。でも、この石とて完全な球体ではない。よく見ると、所々に歪さが残っており、表面にも細かな傷がある。
そのため「ゆっくり」転がすと、勢いよく転がしたときのように真っ直ぐは転がらず、右へヨロヨロ左へヨロヨロと、まるで行き先を迷った子羊のように頼りない起動を描く。その様子は、勢いよく転がしたときとは別の人格が宿っているかのようにも見える。
この石が転がる様を見て、何となく人の生き方にも通じるような気がした。ゆっくり一つひとつのことに立ち止まっていては、そこに不必要な迷いが生じて右往左往する。そんな様子を見て、周囲もその人に心許なさを感じてしまう。でも、私自身は、猪突猛進に転がる石よりも、少々頼りなくてヨロヨロしていても、ゆっくり転がる石の方が好きである。この石と同様、歪さや傷があるのも、人間らしさの象徴なのだから。
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