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以前、とある知り合いの個人事業者の方が、こんな話をしていた。「会社化すると、自分の目が行き届かないところで仕事が動いていくことになりますよね。自分はそれが嫌なんです。やっぱり、自分や会社の名前で世にでるものは、『自分の作品』であり、自分の目の届く範囲で作りたい。会社にして人を雇うようになると、どうしても目が届かなくなるじゃないですか」
なるほど、デザイナーらしい意見だなと思った。確かに、自分以外の人間が携わることで、これまで維持してきた「品質」が落ちるのは怖い。品質が下がれば、会社への評価が下がり、自分自身への評価も間接的に下がることとなる。そんな状況は、職人肌のデザイナーにとって我慢できない状況であろう。
だが、人に頼むことによって、品質が上がるケースも考えられる。多分、デザイナーにとっては、自分が手がけていない作品が評価されることも決して嬉しくないのかもしれない。だが、会社という組織は多くの才能が寄り集まって、価値を高めていく集団だと私は考えている。だから、社長の能力の範囲内でしか仕事ができない人間ばかりが集まっていても、組織としてなんら成長は見込めない。
そんなことを日ごろ考えていたのだが、今回弊社で制作した「子どもの安全と危機管理」の新聞広告は、「品質が上がった」典型的な例だったと思う。このイメージ、洗練されたレイアウトの配置は、私がディレクションをしていたら、きっと台無しになっていたに違いない。
この広告が完成したとき、ようやくうちの会社も一人歩きをし始めたのだなと思った。ここ最近は、そんな毎日に日々感謝している。
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