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さらばシベリア鉄道

070428.jpg大瀧詠一のヒットソングに「さらばシベリア鉄道」という曲がある。1980年リリースとあるので、もう30年近くも前の歌である。邦楽洋楽問わず、音楽にはあまり造詣の深くない私だが、この曲には忘れられない思い出がある。

私が小学生の頃の話だが、学校から帰ると、母親が居間の片隅で泣いていた。私が「どうしたの?」と聞くと、母は気丈に「何でもないの」と言い、私に背を向けて小物の整理をし始めた。状況が飲み込めなかった私は、ただしばらく、涙に暮れる母親の背中を見続けた。その時、居間に流れていたのが、この「さらばシベリア鉄道」だった。

この線路の向こうには何があるの?
雪に迷うトナカイの哀しい瞳
答えを出さない人についてくのに疲れて
行き先さえ無い明日に飛び乗ったの

後々になって分かったことなのだが、母はこの日、父が癌に犯されている事実を医師に告げられたのだった。「転移の可能性は高く、最悪の場合はあと半年程度かもしれない。」まだ幼い私以外にも、大学生の姉や高校生の兄を抱え、まだ若かった母はきっと目の前が真っ暗になったに違いない。一体、どんな気持ちでこの「さらばシベリア鉄道」を聴いていたんだろうか。

幸い父の癌は転移しておらず、70を超えた今も元気で暮らしている。そして、「あと30年は生きる」と言っては、母に「面倒見ないからね」と突き放されている。

あの日から20年以上もたった後、久々に「さらばシベリア鉄道」を聴いてみた。ちょっと時代遅れの感がする編曲。でも、自然と涙がこぼれ落ちた。

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