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重松清氏の作品といえば、直木賞をとった「ビタミンF」や映画にもなった「疾走」などが有名だが、個人的に一番好きなのが「哀愁的東京」(写真)である。全9章からなる短編集だが、主人公は同一人物で、すべてを通して読むと一本の長編にもなっている。重松氏の数ある著書の中で、唯一「フリーライター」を主役にした小説でもある。
小説では、主人公がフリーライターという仕事を通じて様々な人間と出会い、その奇異な出会いを通じた人間模様が描かれている。読んでみるとフリーライターがどんな仕事で、どんな悲喜交々があるのか、その一端を垣間見ることができる。フィクションとは言え、かなりのリアリティをもって伝わってくるのは、重松氏自身が以前、フリーライターであったからに他ならない。恐らく、小説の大半は、重松氏個人の実体験をベースに描かれているものだと思う。
小説の中で強く印象に残ったのは、その昔、絵本作家として名を馳せた主人公を叱咤・激励し、共に夢を描く女性編集者の姿であった。そんな編集者がいてくれれば、クリエイターにとってこれほど心強いものはない。ふと、自分の現状を振り返って寂しさが押し寄せてきた。これを「哀愁的東京」と言うのだろうか。
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