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沢木耕太郎の「凍」を読んだ。主人公は世界的クライマーの山野井泰史とその妻である妙子。二人がヒマラヤの「ギャチュン・カン」という高峰の北壁にアタックし、遭難寸前に陥りながら奇跡の生還を果たすまでの実話が描かれている。クライミングの世界の凄まじさ、山にかける山野井夫妻のひたむきな思いが、沢木氏ならではの圧倒的な描写力で綴られていて、夢中になって読んでしまった。
恥ずかしながら、私は山野井夫妻のことも、クライミングの基本的なことも、「ギャチュン・カン」のことも、この本を読むまで何一つ知らなかった。それでも「夢中」になってしまったのは、きっとそこに生身の人間の本性というものが、生々しく描かれていたからではないかと思う。「死」というもの、そして「生」というものに対し、誰よりも冷静かつ客観的に向き合えるのは、あるいはクライマーなのではないだろうか。「なぜ山に登るのか」という質問に「そこに山があるから」と答えたのはイギリスの登山家ジョージマロリーだが、その真意がこの本の中にあるようにも思った。
沢木耕太郎の本は「敗れざる者たち」「一瞬の夏」から「深夜特急」に至るまで、その大半を読んできたのだが、今回はクライマーが主人公とあって、文章のほとんどは間接取材(本人からの聞き取り)で成り立っている。その点がこれまでの作品と異なる点なのだが、それでもってこの圧倒的な描写力・・・。もう脱帽以外の何物でもない。
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